気候変動に立ち向かう我が国の技術開発

  • 解説

田中 信義 顧問弁護士

 気象庁は、2026年4月17日、最高気温40度以上の日を「酷暑日」と命名した。そして、今夏、千葉豪雨に代表されるゲリラ豪雨が各地で頻発する上、気温30度で猛暑と受け止めてきた私には気温40 度という信じ難い日が8 月3 日時点において全国各地で合計30日を超え、多摩動物公園では3 頭のライオンが暑さで死亡するという驚異の現実に直面している。 震度7 の地震に見舞われた熊本市における連日の猛暑は、被災者の生命と復興に対する最大の脅威といっても過言ではない。

 また、台風は西から東に進行するというこれまでの常識を覆し、台風15号は、統計史上初めて茨城県に上陸、その後、西方に進むという逆走台風となったという現実に我々は直面している。もはや、これまでの常識が通用しない気象現象が当たり前の事態となっている。

 これらの気象変動の主要な要因として、化石燃料の消費に起因する地球温暖化による我が国を取り囲む海水温の上昇が挙げられている。

 我が国は、地球温暖化防止について「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10 年法律第117 号)を定め、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質0にする脱炭素社会を目指すとしている(令和3年改正)。

 温暖化防止の上で最重要なものは化石燃料の使用量の抑止である。しかし、化石燃料は、自動車や電気を作るための燃料などとして極めて重要である。のみならず、我々の日常生活において、食品等の包装に使用されるビニールフィルムは無くてはならない生活必需品であり、フィルム無き食品ビジネスなど考えられないことから、その原料のナフサがホルムズ海峡問題を契機に入手困難という重大事態となり、ナフサ争奪戦が勃発した。

 そのような厳しい状況下、他国に頼らない温暖化防止技術の開発が我が国で進展しているので、以下に紹介したい。

 1 石油に代わる新素材「リグニン」の研究

 日本経済新聞2026年8月9日版に「森林が秘める脱炭素力」なる記事が掲載された。
 東京大学の熊谷朝臣教授らの研究チームによれば、我が国の森林が吸収する二酸化炭素量は、従来想定されていた年7600万トンの約2倍、我が国の温暖化ガス排出量の吸収・炭素固定量は年間最大約1.69億トンと推計している。更に注目したい点は、木材由来の成分であるリグニンは接着力が強く、石油由来のアスファルトに成分がよく似ているといわれている。しかも、日本固有の針葉樹である杉に含まれるリグニンは、均一かつ構造のばらつきが少ないとのことである。農林水産省においても「植物由来の新素材の研究」に取り組み、東京工科大学では「石油に取って代わる新素材リグニンとは?」などとして、研究を進めている。我々の生活に不可欠なアスファルトやセメントに代替し得る可能性を秘めたリグニン、森林が国土の3 分の2 を占める我が国の安心の天然素材である木材の奥深さが大いに楽しみである。

 2 セルロースナノファイバー(CNF)の開発

 日経新聞2026 年8 月11 日版の14 面に、「木材由来の繊維を熱加工」と題する記事が掲載された。セルロースナノファイバー(CNF)は、木材由来の極細繊維であり、植物の細胞壁の主要成分であるセルロースを直径2~3 ナノメートルまで細かくほぐした極細繊維である。鋼鉄の5 分の1 の重さでありながら、強度は5倍、熱膨張も少ないという、優れた性質を有している。しかし、従来、加工が難しいという難点があったが、大阪大学や東京大学の研究チームは、我が国の関連企業と連携し、加工技術の研究を進め、プラスチック代替素材、自動車のフレーム、建設材料、放熱部材への応用も期待できるという。大阪大学などの研究チームは、関係企業と開発に力を入れ、2029 年までの実用化を目指している、という。

 今夏は、全国各地で豪雨被害が発生した。1日2日の短期間に1ヵ月分の雨量を超えるないしは匹敵する降雨量である。従来の雨の降り方を前提に構築された排水路等の基本インフラの能力を超える雨量のため、洪水、アンダーパス水没等の被害が多発した。海に囲まれ温暖化の影響を受けやすい我が国は、世界5位の温暖化ガス排出量の削減に立ち向かう必要がある。

 化石燃料重視の生活様式がもたらす地球の温暖化を回避する技術が世界に先駆けて我が国で研究、進展していることを日本人の一人として期待と誇りを感じている。更に技術開発を進め、その技術を、特許制度を活用して世界中に広く浸透させ、地球環境を守ることができれば、知的財産権制度に係わる者として、大変嬉しい。

 平木国際特許事務所は、これらの研究成果に基づく特許出願手続を担当できることを心待ちにしている。

田中 信義

裁判官として長年にわたり行政・知的財産事件の審理に携わるなど、豊富な裁判実務経験を有する。
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