映画に関する技術と特許の歴史

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村松 威音 バイオ・化学グループ 特許技術者

 早いもので、当事務所に入所して1年が経過いたしました。アカデミアに身を置いていた頃から知的財産に触れる機会はあったものの、以前はどこか遠い存在に感じていたように思います。しかし最近では、日常生活のふとした瞬間に知財の存在を身近に感じることが増えているように思います。

 つい先日の出来事ですが、旧知の友人と共に人気SF映画シリーズの最新作を鑑賞しました。久しぶりの娯楽映画ということもあり、少し奮発して「IMAX版」(「IMAX」はカナダの映画会社であるIMAX Corporationの登録商標です。)を選んだのですが、これが想像以上に素晴らしい体験でした。

 まるでアトラクションのような臨場感に時間を忘れて熱中したのも束の間、エンドロールに「IMAX」のロゴが現れた瞬間、職業柄でしょうか、ふと「商標」の二文字が頭をよぎり、そこから自然に「特許」へと連想が広がりました。「ただ映像が美しい」という枠を超えた臨場感の裏にも、特許技術が潜んでいるのではないか。また、映画産業の発展の裏には他にも数々の特許発明が不可欠であったであろうと次々想像が膨らみました。

 そこで本稿では、「映画」に関わる特許の歴史について少し紐解いてみたいと思います。

 映画の歴史を語る上で、発明王トーマス・エジソン(Thomas Edison)の存在は避けて通れません。彼は1890年代に、映画撮影機「キネトグラフ(Kinetograph)」と、その再生装置「キネトスコープ(Kinetoscope)」を開発し、特許を取得しました(米国特許第589168号等)。

 世界初の映画上映機とも称されるキネトスコープですが、現代のようにスクリーンに投影する方式ではありません。木箱に設けられた「のぞき窓」から、一人ずつ内部をのぞき込んで鑑賞するパーソナルなスタイルでした。

 その仕組みは、連続したセルロイドフィルムを内部のローラーで走行させるというものです。

図1

 単にフィルムを流すだけではブレて一筋の光にしか見えないため、エジソンはフィルムとレンズの間に「スリット入りの回転シャッター」を配置しました。フィルムの移動速度に合わせてシャッターが高速回転し、一瞬だけ光を通すことで、人間の目に残像効果(パラパラマンガの原理)を引き起こします。これは世界初の「動く写真」を実現した革新的な技術でしたが、私たちが知る「映画」というよりは、むしろ「動画」の元祖と呼ぶべきものでした。

 キネトスコープは偉大な発明ですが、「スクリーンに映写してこそ映画である」と考える方も多いでしょう。暗闇のなか、大勢で同時にスクリーンを共有するという現代に通じる映画のスタイルを確立したのは、フランスのリュミエール兄弟です。彼らは1890年代後半に、「シネマトグラフ(Cinématographe)」という装置の特許を取得しました(米国特許第579882号等)。

 その最大の特徴は、エジソンの「連続的にフィルムを流す」仕組みに対して、フィルムに「間欠運動(静止と移動の繰り返し)」を取り入れた点にあります。

図2

 クランクを回すと、独自の「爪(クロウ)」がフィルム上の穴に噛み合って1コマ分だけ引き下げ、次の瞬間には爪が外れてフィルムが静止します。この「一瞬の静止」のタイミングでのみ光を当ててスクリーンに投影し、また次のコマへ進めるという巧みな機構です。

 この間欠運動により映像のブレが解消され、強力な光源を用いた大画面への投影が可能となり、ついに私たちのよく知る「映画」が誕生したのです。

 時代は一気に進み、話は冒頭の「IMAX」に戻ります。関連する技術(撮影、音響、投影など)は多岐にわたり本稿には収まりきれませんが、日本国内におけるIMAX社の特許出願を調べてみたところ、「臨場体験型映画劇場およびその方法」(特願2000-546275)という興味深い出願を見つけました。

 この出願では、観客席の傾斜角度、座席からスクリーンまでの距離の比率、スクリーンの湾曲率といった「空間の幾何学的パラメータ」が請求項で定義されています。

図3 

 座席をスクリーンに近づけ、画面両端を座席側に湾曲させることで、人間の「周辺視野」までも映像で覆い尽くすというものです。観客が単に映像を「観る」のではなく、映像の「内側にいる」ような没入感を得られるよう設計されています。この出願の設計がどこまで採用されているかはわかりませんが、IMAXシアターに足を踏み入れた際に感じる「単にスクリーンが大きいだけではない特有の圧迫感」は、こうした独自の客席傾斜やスクリーン配置によるものなのかもしれません。

 興味深いことに、この出願は進歩性欠如の拒絶理由通知に対し応答がなされず、拒絶査定が確定しています。これらの空間パラメータは、IMAX独自の映像・投影技術と不可分のものであり、それ自体を独占する意義がそれほど大きくなかったのかもしれません。また、「臨場感」という主観的な技術的効果は、特許審査において主張することが難しそうにも思われます。この点について、他のアミューズメント業界がどのような知財戦略を構築しているのかも、興味を惹かれるところです。

 普段、主としてバイオ・化学関連の業務に携わっている私にとって、機械系の明細書を読み込むことは新鮮な体験でした。その記述の緻密さに改めて驚かされるとともに、日頃から同分野の実務に携わっておられる発明者・諸先生方への敬意を新たにしました。今後は自身の専門分野にとらわれず、幅広い知財業界の動向にアンテナを張り、実務の糧にしていきたいと考えております。

 映画ファンの間で「IMAXといえばこの人」と称されるのが、『ダークナイト』や『インターステラー』など数々のヒット作を生み出してきたクリストファー・ノーラン監督です(私自身もファンの一人です)。

 彼はIMAXカメラでの撮影に並々ならぬこだわりを持っており、『ダークナイト』の撮影現場で、当時世界に4台しかなかった貴重なIMAXカメラを破壊してしまったというエピソードが語り草になっています。 そんな彼の最新作『オデュッセイア』が、今年9月11日に公開を控えています。トロイア戦争を題材にした作品とのことで、SFの印象が強い彼がどのような歴史スペクタクルを見せてくれるのか、今から大いに期待しております。皆様もぜひ劇場に足を運んで劇場の臨場感を体感し、エンドロールを眺めながら、ほんの少しだけ映画と特許の歴史に思いを馳せてみられてはいかがでしょうか。

村松 威音

2025年に平木国際特許事務所入所。バイオ化学グループに所属。
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