商品等のネーミングと 商標法3条1項3号(前編)

  • 解説

渡部 寬樹 商標・意匠G グループリーダー 弁理士/特定侵害訴訟代理業務付記弁理士

 とある日曜日、昼食に食べた日清食品株式会社様の「日清カレーメシ」についてふと興味がわき、少し調べてみました。

 「日清カレーメシ」は、いわゆるリブランドの成功例として紹介されることが多く、その成功には商品名の変更が大きく貢献したようです。商品・サービスの開発において、ネーミングの重要性は広く知られており、その要点として、商品・サービスの効果やメリットが伝わるようにしなければならない、という点があげられています。しかし、商品やサービスの効能などがわかりやすい名称となると、商標登録の際に、商標法第3条第1項第3号の壁が立ちはだかります。

 そこで本稿では、商標法第3条第1項第3号(以下「3条1項3号」といいます。)に関する拒絶理由を克服した商標「カレーメシ」(標準文字 登録第6198189号)の出願手続きを例に、前半で商品名やサービス名の採択の際に注意すべき点について、後半(次回)で登録の可能性を高くするための出願戦略について、検討したいと思います。

 3条1項3号は商標登録を受けることができない商標として「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(中略)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」をあげています。

 商標審査基準によれば、「商標が、その指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識する場合、本号に該当すると判断する」が、商標が、商品又は役務の特徴等を間接的に表示する場合は、商品又は役務の特徴等を表示するものではないと判断するとされています。

 では、どのような場合に間接的と判断されるのでしょうか。

(1)出願手続きと拒絶理由通知の概要

 商標「カレーメシ」は、2019年2月19日に第29類及び第30類に属する商品を指定して出願され、その後、3条1項3号に該当する旨の拒絶理由通知が発せられました。これに対し出願人は、指定商品を限定する手続補正をしつつ、意見書により反論を試み、その結果、登録されるに至りました。

 審査官は拒絶理由通知書において、「「カレー」の文字は、「カレー粉を用いてつくった料理。特にカレーライスのソース。」の意味を有し、「メシ」の文字は、「めし。ごはん。」の意味を有する「飯」を想起させる語(中略)である」ことから「本願商標は、全体として、おおむね「カレーを加味したごはん」ほどの意味合いを想起させる」にすぎないと説示しています。

(2)出願人の主張の概要

 出願人は意見書において、「メシ」の意味について、食材を表す語と結合して料理名を表す「イカめし」や「牛めし」、時間を表す語と結合して、一日のうちのどのタイミングにとる食事であるかを表す「朝めし」や「昼めし」、イタリア料理を意味する「イタメシ」、国道沿いにある食事処を表す「国道メシ」、漁師が食べる料理を表す「漁師めし」、ここからが勝負どころという場面において願掛け的に食べる食事の通称として「勝負メシ」といった例をあげつつ、「メシ」の語が様々な種類の言葉と結びついて新たな造語を創り出す性質を有し、その意味は結びつく言葉によって全く異なることから、「〇〇メシ」という造語に触れた需要者は、その意味を具体的に捉えることができないことを主張しています。

 なお出願人は、上記主張に加え、本願商標の使用により取引者・需要者に識別されるに至った点を主張し、合わせて本願商標の採択過程における消費者の声と検討内容の説明をしています。

 ここで、「カレーメシ」のケースと出願が拒絶されたケースとを比較したいと思います。ここでは、「カレーメシ」と同様に食品業界に関する商標であって二つの語を結合してなる造語である商標「採食マンドゥ」(商願2022-91003 商品の区分:第30類)の出願を例にあげます。

 「菜食マンドゥ」の出願に対しては3条1項3号に関する拒絶理由通知が発せられ、出願人は意見書を提出して反論を試みましたが、結果として拒絶査定がなされました。審査官はその拒絶査定において、「マンドゥ」の語がインド中央部の都市名の意味をも有するとしても、取引の実情に鑑みると「韓国式餃子」を意味する語として認識される点、及び「「菜食」の語は「肉類をとらず、穀物・野菜の類のみを食べること。」を意味し、「菜食ケチャップ」、「菜食餃子」など「菜食××」の使用例が複数あり、それらの使用例にはベジタリアン向けである等の記述がある点などをあげつつ、本願商標からは「肉類をとらず、穀物・野菜の類のみを食べる人向けの韓国式餃子」との意味合いが看取される旨を説示しています。

 この拒絶査定に対し出願人は、①「菜食」及び「マンドゥ」の語からそれぞれ複数の意味合いが生じ一義的ではなく、いずれの意味合いを組み合わせても、指定商品の品質を表示しない点、②需要者において「マンドゥ」の語は「韓国式餃子」と認識されない点等を理由に、拒絶査定不服審判を請求しましたが、結果を覆すには至りませんでした。

 この拒絶された例と「カレーメシ」の手続きとを「商品の特徴等の間接的な表示」となるか否かという観点で比較します。

 まず「カレーメシ」について、確かに「ライスをメシと言い換えただけ」とも言えそうです。しかし、意見書に記載の通り、他の文字と結合した「メシ」の文字が一般的に「料理」、「米飯」、何らかの「食べ物」等といった広範な意味で使用されるケースを確認できます。そのため、「メシ」の文字が含まれるとしても、いわゆる「カレーライス」を想起するとは必ずしも言えず、むしろ「カレーを使った何らかの食べ物」程度にとどまり、どのような食べ物なのか直接的、具体的に商品を想起できないとの判断は、とても納得のいくところです。

 他方「菜食マンドゥ」についてですが、「菜食」の辞書上の意味合いは複数あるようです。しかし、二語の結合商標に関する識別性の主張においては、一方の語と他の語の結合により、その一方の語がどのような性質を生じるのか、という点が重要と考えます。この点審査官は、「取引者,需要者に広く認識されている場合はもとより, 将来を含め, 取引者, 需要者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,その商標は,同号に該当する」(知財高裁 平成17年6月9日判決(平成17年(行ケ)10342号))と引用しつつ、指定商品に係る業界において、その語が需要者、取引者に使用されている一般的な実情を考慮した上、本願商標の商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性について認定しています。この「実情」に関してインターネット検索をしてみましたが、拒絶査定にある通り、「菜食ケチャップ」、「菜食餃子」などの「菜食××」の使用例は多数見られ、いずれも菜食者用食品、ヴィーガン用食品を表していましたが、その他の意味合いでの使用例は発見することができませんでした。この点からすると、少なくとも「菜食」の文字と料理名を表す普通名称が組み合わさった場合、その「菜食」の語からは「肉類をとらず、穀物・野菜の類のみを食べる人向け」であるという特定の意味合いを生じさせるという性質が生じると理解することは、とても自然だと思います。加えて、「マンドゥ」についてのインターネット検索の結果、そのほとんどが餃子に類する韓国料理に関する情報が検出されることからすれば、「菜食マンドゥ」の文字から、「肉類をとらず、穀物・野菜の類のみを食べる人向けの韓国式餃子」のような、一定程度に具体的、直接的な意味合いを生じるとして、3号該当性を肯定した査定・審決の結論には、小職としては納得感があります。

 本稿に示した点のみが商標「カレーメシ」が商標登録された理由ではないと思いますが、少なくとも「一見商品・役務の特徴等を表すような意味合いを有する語」(上記の例では、「メシ」及び「菜食」)と「普通名称又はこれに準じる程度に需要者に認識されている語」(上記の例では、「カレー」及び「マンドゥ」)とが結合してなる造語の商標に関し、前者の要素について、辞書上の意味が複数あるか否かにかかわらず、それが後者の要素と結合した場合に、一般的に前者の要素に複数の意味合いが生じるといえる程度に、取引者・需要者により複数の意味合いで使用される性質を有する場合には、3条1項3号の該当性を否定できる可能性が高くなると思われます。

 以上から、二語を結合させた商品・サービスの効果等を表すような名称の採択を検討する場合には、少なくとも片方の語に関し、①普通名称やこれに類する語と結合した語の使用情況があるか否か、②その片方の語が業界において複数の意味合いで使用されているか否か、という視点においてインターネット等で検索・確認することが、3条1項3号との関係において必要なのではないかと考えます。

 但し、直接的・間接的の判断に客観的な基準はなく、難しい判断を伴います。そこで、商標登録の可能性を高めるための出願戦略が必要になります。(後半に続く。)

渡部 寛樹

国内外の商標を中心に、調査・出願・管理から、著作権・不正競争防止法に関するクリアランス、侵害対策まで、権利の取得から行使まで幅広く担当。あわせて、研修の企画・実施など、社内の知財・ブランド意識向上にも積極的に取り組んでいる。
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