商品等のネーミングと商標法3条1項3号(後編)

渡部 寬樹 商標・意匠G グループリーダー 弁理士/特定侵害訴訟代理業務付記弁理士

1.| 前編の内容

 前編に続き、本稿は、一見、商品・サービスの特徴を表現する名称を採用するにあたり、商標登録の際に直面する商標法第3条第1項第3号の「壁」の回避方法について検討をしています。

 前編では、同号の拒絶理由を克服した商標「カレーメシ」の事例を、同じ理由で拒絶された商標「菜食マンドゥ」の例と比較して、商標の採択段階における注意点を検討しました。この点、二語を結合させた商品名・サービスの効果等を表すような名称の採択を検討する場合には、少なくとも片方の語に関し、①一般に普通名称やこれに類する語と結合した語の使用があるか否か、②その片方の語が業界においてそのような複数の意味合いで使用されているか否か、という視点に基づきインターネット等で検索・確認し、採択しようとする商標が「商標が、商品又は役務の特徴等を間接的に表示する場合」(商標審査基準)に該当するかを判断すべきと考えました。

 しかし、例えば「菜食マンドゥ」の文字からは、焼き餃子風食品なのか、蒸し餃子風なのか、豆類が入ったものなのか、きのこ類が入ったものなのかなど、少しミクロ的な視点からすれば直接的ではないと言えそうです。このように、直接的か間接的かの判断基準は必ずしも明確ではなく、その判断は極めて難しいと言えます。この難しい状況の中にあっても、ブランド保護のための商品名に関する商標登録の必要性は高く、ここで必要となるのが“出願戦略”です。

 後編では、この出願戦略について、筆者の推測を多分に含めつつ商標「カレーメシ」の出願を例に検討したいと思います。なお、筆者は「カレーメシ」の出願手続きに一切かかわっておらず、推測と事実に相違が多くあると思います。しかし、この「推測」に意義があるのではないかと考えております。悪しからずご了承ください。

2.| 筆者が推測する商標「カレーメシ」の出願戦略

 商標「カレーメシ」(標準文字)が登録に至るまで、概ね以下のような出願経緯をたどっています。

・2013年12月9日「NISSIN\日清食品∞カレーメシ」出願(登録第5665518号)

・2019年2月19日商標「カレーメシ」(標準文字)出願(登録第6198189号)

 2013年の出願から2019年の出願までの6年間に様々なバリエーションの商標(9件)について出願がなされ、登録されています。このように「カレーメシ」(標準文字)の出願までに6年を要していますが、これは当初の商標調査段階で、3条1項各号の拒絶理由の回避可能性について、可能ながらも確実ではないという判断に起因するものと推測します。そして、このような事情のもと、商標「カレーメシ」に係るブランド保護の目的から、まずは登録可能性の高い商標の出願を行うことにより周囲を固め、その中で商標の使用実績を作り、「カレーメシ」の語が「現実の取引の状況」として自他商品識別力を有している旨主張できる状況を作出した上、最終的にその実績に基づいて「カレーメシ」の文字商標を登録しようとする戦略的な判断があったのではないかと推測します。自他商品識別力の獲得の点は、登録第6198189号に係る出願の審査における出願人が提出した意見書において主張しています。

 上記出願戦略については、6年間という比較的長期にわたり、少々迂遠なようにも見えます。しかし、カレーメシは、2013年に発売された商品「カップカレーライス」のリニューアル商品として2014年に発売されました。そのリブランディングの中心人物として、当時すでに「SMAP」や、「UNIQLO」「今治タオル」などのブランディングで名を馳せていた佐藤可士和氏を起用したことからも、日清食品株式会社様の「カレーメシ」ブランドへの力の入れ具合が想像されます。このような重要ブランドとして位置づけされる中、仮に「カレーメシ」の文字のみから構成される商標を出願し、3条1項3号に該当することを理由に拒絶されてしまえば、「カレーメシ」という語が他社も自由に使用できることになる危険が生じ、ブランディングの根底を覆してしまう事態に陥りかねません。このような重要ブランドに関する商標であるがゆえに失敗は許されず、時間やコストをかけてでも商標を確実に保護する施策を戦略的に進めたのではないかと想像します。

3.| 出願態様について

 上記の出願戦略ですが、商標の使用実績を作り、その実績に基づいて「現実の取引の状況」として出願に係る商標の自他商品識別力を主張する手法は、意見書などでは比較的多く用いられるものであり、出願戦略としても特に目新しいというものではありません。

 しかし、筆者が「カレーメシ」に関する一連の商標出願に接して特に参考になると感じたのは、その出願態様です。文字のみからなる商標の出願に先んじて、識別力のある要素との結合商標を出願する目的は、その文字部分について事実上の独占状態を作出することにより、自他商品識別力の主張の基礎とする点にあります。この事実上の独占状態とは、実際の取引上及び登録上の独占状態を意味し、その実現の一助として禁止権による威嚇効果と後願排除効の発揮を狙い、商標登録を行います。「カレーメシ」の例では、自社で「カレーメシ」の商標を使用するのみならず、他社が商標「カレーメシ」について出願した場合に、それが万一にでも商標登録されてしまうことを防止するとともに、禁止権の威嚇効果により他人が「カレーメシ」の名称を使用することを躊躇させることを狙います。

 ここで、威嚇効果と後願排除効を効率的に発揮させるための出願態様が重要になります。

 典型例として、「〇〇カレーメシ」のような識別ある文字と結合させる方法が考えられます。しかし、「〇〇カレーメシ」が一体的に示されていることなどから、「カレーメシ」と「〇〇カレーメシ」とが非類似であると認定される可能性は、実務上低くはありません。

 そこで「図形」と「カレーメシ」の文字の結合が考えられます。上記効果の最大限の発揮という視点のみに限定して立てば、いかにも「カレーメシ」の文字が単独で登録されているかのような外観を有する出願態様が、威嚇の面からも、後願排除の面からも、望ましいように思います。しかし、不使用取消審判の点も考慮が必要となるため、理想通りの態様は難しいのが現実です。

 この点、2013年に出願された、「カレーメシ」の文字と赤字に白抜きで「NISSIN\日清食品」と記載されたデザインの結合からなる商標は、中央に大きく「カレーメシ」の文字を配置し、その左上部の少し離れた位置にそのデザインが配置された構成からなります。この構成ですが、上記効果の発揮という視点から、特に文字部分と識別力のあるデザイン部分との位置関係について、その距離感が絶妙ではないかと筆者は感じました。

4.| 最後に:ブランド戦略における知財担当の役割

 「カレーメシ」の他に、「お~い、お茶」(株式会社伊藤園様)や「鼻セレブ」(王子ホールディングス株式会社様)などの成功事例が示すように、ブランディング、とりわけネーミングは商品の運命を左右する極めて重要な要素です。ネーミングを担当されるマーケティング部門や開発部門の皆様は常に頭を悩ませていることと思いますが、このような戦略的な意思決定において、知財担当が果たすべき役割もまた極めて大きいと言えます。

 本稿で検討した「カレーメシ」の事例は、一見識別力の弱い名称であっても、戦略的な出願計画と粘り強い使用実績の構築によって、確実に独占権を獲得できることを示しています。

 しかし、この長期戦略を成功させる鍵は、ネーミングの企画段階、すなわち初期段階から知財担当が関与することにあると思います。具体的には以下の関与が考えられます。

 ・ネーミングの初期スクリーニング:商標法第3条第1項第3号の「壁」の早期予測と、回避策(結合商標の提案、商標の使用方法の提案など)を事前に検討し講じる。

 ・出願戦略の早期策定:使用実績による識別力獲得を見据 えた初期の結合商標出願と、その後の標準文字出願のタイミングを事業計画に合わせて行う。

 このように、ネーミングの最終決定間際ではなく、早期に知財担当が関与することにより、結果として担当者が思い描くブランド戦略を実現することが可能になるケースが多いのではないかと筆者は考えます。

 本稿が、ネーミング戦略において、知財担当が企画の「川上」から参画し、ビジネスリスクの最小化と権利の最大化を実現するための一助となれば幸いです。

渡部 寛樹

国内外の商標を中心に、調査・出願・管理から、著作権・不正競争防止法に関するクリアランス、侵害対策まで、権利の取得から行使まで幅広く担当。あわせて、研修の企画・実施など、社内の知財・ブランド意識向上にも積極的に取り組んでいる。
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