成形ポテトチップはポテトチップ?

林 浩 副所長 弁理士

1. | 序章

”potato chip lover”を自称する私にとって、各国のポテトチップの違いは面白い。

 我が国では、ジャガイモを揚げた素材の味・風味・食感を残す、淡泊な塩味やのり塩味が伝統的であるが、海外では、様々なフレーバー味が多い。ジャガイモを揚げた素材の食感を活かしながらも、味・風味は皆好き好きという様相である。その共通する食感と言えば、口に入れた瞬間のあの硬いゴワゴワ感と噛んだ時の砕ける爽快さ、それが心地よく響くというところに食べ応えがある。

 原料となるジャガイモにも向き不向きがあるようで、我が国では、アトランチック、ぽろしり、こがね丸等の品種が知られている。還元糖が少なく焦げにくい、薄切りしやすい、目が浅いなどの特徴が向いているということのようだ。中には敢えて希少な品種を用いることで付加価値を付けている製品もあるようだ。が、それらの中には、これは?と思う微妙な違和感を持つものもあった。噛んで割れた時の口の中での響きの伝わり方と砕けた後の溶け方と余韻が僅かに違う。そう、「成形ポテトチップ」である。

2. | 疑問-成形ポテトチップはポテトチップか?

 我が国を始めとして各国等の辞書や食品表示等の法令を観察してみよう。

 日本では、ポテトチップという語は一般化されており、「馬鈴薯を薄切りして食用油で揚げたもの」のみならず、馬鈴薯粉など穀物粉を成形して馬鞍状の形状をしたものも呼称としてポテトチップに含まれることが多いように感じている。実際のところはどうか?「広辞苑」(7th edition)を引いてみると、「ジャガ芋のごく薄く切ったものを油で揚げ、塩味その他の風味を持つスナック菓子」とあるので、国語的には、馬鈴薯粉など穀物粉を成形して馬鞍状の形状にした成形ポテトチップは、要件を満たしていないようである。

 他方、専門的な「総合食品辞典 第六版桜井芳人編同文書院1988.6.4」によれば、広辞苑とほぼ同様の定義がされているが、その中に、「ポテトフラワー」からなる「組み立て食品」としての「成形ポテトチップ」の説明があり、そこで「外観や組織がポテトチップに似ている」と言っている。観念としては、ポテトチップと成形ポテトチップの両者は峻別されているようである。

3. | 法令上の定義

 日本の食品に関する法令として「食品表示法(平成二十五年法律第七十号)」という本論にはうってつけの法律があるので、見てみよう。

 第四条(食品表示基準の策定等)第1項に、「内閣総理大臣は、・・・食品を消費者が安全に摂取し、及び自主的かつ合理的に選択するために必要と認められる事項を内容とする販売の用に供する食品に関する表示の基準を定めなければならない。」とされている。

 食品表示法第四条第1項に基づいて定められた「食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)」はどうなっているか。

 「(横断的義務表示)第三条 食品関連事業者が容器包装に入れられた加工食品・・・には、次の表の上欄に掲げる表示事項が同表の下欄に定める表示の方法に従い表示されなければならない。」として、・「名称:その内容を表す一般的な名称を表示する。」

 ・「原材料名:使用した原材料を次に定めるところにより表示する。」と定められている。

 名称としては、その内容を表す一般的な名称を表示するとあるので、一般的な名称であるか否かが論点となるが、これは、前掲の辞書を基礎として考えることになろう。もう少し手がかりはないものか。

 表示例の中に、「遺伝子組換え食品」に関する表示を義務付けられている食品がある。その中の「馬鈴薯」に関連して「ポテトスナック菓子」という例示がある。

 どうやらわかるのはここまでのようである。ポテトチップは間違いなく「ポテトスナック菓子」に含まれるであろうが、成形ポテトチップも「ジャガイモ由来の」という意味で「ポテトスナック菓子」ではあろうから、答えにはたどり着けない。

 ちなみに、食品の扱いに関してよく話題となる「消費税法(昭和六十三年法律第百八号)」(実質的に付加価値税型のものである。)を見てみると、同第二十九条において、消費税の税率(国税)は標準税率が「百分の七・八」、軽減対象課税資産の譲渡等が「百分の六・二四」とされ、(他に地方税を賦課)その「軽減対象課税資産」は、消費税法第2条において「軽減対象課税資産の譲渡等・・・別表第一に掲げるものをいう。」とされ、その別表第一には、「飲食料品」(食品表示法の食品のうちアルコール類を除く)が掲げられているだけでそれ以上のポテトチップに関する情報はないようである。

4. | 街角にて

 では、食品表示法に基づく表示の実際を、店舗で商品を手に取って見てみよう。各商品を俯瞰すると、どうやら、通常のポテトチップは、上述の法定事項としてその名称に「ポテトチップ」と表示されている。これは驚くに当たらない。他方、成形ポテトチップはというと、ポテトチップと同様に法定事項として「ポテトチップ」と表示する商品と、「スナック菓子」と表示する商品に分かれている。いろいろ見てみると、どうやら前者は海外メーカー由来の食品、後者は国産メーカー由来の食品である。

 国産メーカーの「食品表示基準」の履行という側面から見ると、食品の一般名称のポテトチップは、概ね前掲の辞書に忠実なようである。

 一般名称であるので唯一無二であろうはずはなく、また、時が経過するにつれて変わり得るものであろうから、法令違反を特に咎めたという話も耳にしたことはない。

 ただ、少々気になったのは、メーカーによっては、食品表示法の下での表示名称を「スナック菓子」としつつも、当該メーカーのホームページを見ると「ポテトチップ」と表示しているメーカーもある。

5. | お国が変わると・・・ ① 英国

 英国を見てみると、由緒ある辞書である”Oxford EnglishDictionary”によれば(英国英語では通常”potato crisp”)、ポテトチップは、「薄く切ったジャガイモをカリッと揚げて冷たいまま食べるもの。」とされており、定義は明確だ。

 成形ポテトチップはどうかというと、定義は見当たらなかったが、付加価値税の適用という側面から、成形ポテトチップとポテトチップの違いについて、Revenue and Customs Commissioners v Procter & Gamble [2009] EWCA Civ407が決定的な回答を用意している。初めて知る事例となる読者のために、簡単に説明をしよう。

 これは、英国の付加価値税の仕組みが、人の消費のために使用される種類の食料品の供給であって、「除外項目(excepted items)」に該当するものを除いたものは免税であるが、除外項目に該当するものは標準税率になると規定していることに起因している。

 そして、その除外項目には、「potato crisps, potato sticks, potato puffs, and similar products made from the potato, or from potato flour, or from potato starch」と規定されている。

 具体的には、P&G社が、成形ポテトチップは、ポテトチップではなく、またジャガイモ等から作られたこれらに類似する製品、ではないので免税であると主張したのに対して、英

 国歳入関税庁はこれを、ポテトチップ、またジャガイモ等から作られたこれらに類似する製品として、標準課税としたことが争われた。

 行政審判であるVAT and Duties Tribunalは、英国歳入関税庁の決定を支持したが、その後に出訴されたイングランド・ウェールズ高等法院衡平法部では同決定が覆され、さらにその控訴審であるイングランド・ウェールズ控訴院民事部は原審判決を覆して英国歳入関税庁の決定を支持し、その後確定したものである。

 前述の控訴院民事部の判決によれば、成形ポテトチップに関する判断は次の通りであった。

 ・「類似(similar)」の判断について裁判所は、製品が典型的にスライスされたジャガイモを揚げたポテトチップと“全く同一形態”である必要はなく、外観・味・用途・消費者認識・包装等を総合した多因子的評価(multifactorial assessment)を行うものと判断した、

 ・ジャガイモから作られている (made from the potato, or from potato flour, or from potato starch)」の判断について

裁判所は、「ジャガイモ由来原料(本件ではジャガイモ粉=potato flour)が約42%以上を占め、かつ他の成分より主要な単一原料である」という点を重視し、「ジャガイモ以外の原料が使われているから除外される」というものではないと判断した、

 ・結論

 P&G社の製品は、上記2要件の判断の結果、成形ポテトチップは、除外項目に該当し、標準税率(standard-rated)適用となるとの判示がされた。

 これらのことから、英国では、付加価値税法上、成形ポテトチップはポテトチップに類似する製品であると判断が確定したこととなる。

 ただし、ここで不思議な現象が生じている。P&G社は、上述の英国の訴訟で、同社製品について、ポテトチップ及びその類似品ではないと主張していた。そして、後継の同種製品が日本でも販売されており、先ほどの店頭で手に取ったものに含まれていた。にもかかわらず、法定表示の商品名には、なんと「ポテトチップ」とあった。法律上の義務なので、当然に各国の主権の下での法的行為となるから取り扱いが異なることは思うに難くない。ただ、食品がグローバルに輸出入されて各国の消費者の口に入ることを思うと、消費者は果たしてどう考えるのだろうか?なんとも解せないところである。輸出入会社も食品表示の法定義務に関しては表示シールを包装容器の該当部分に重ね貼りをしてずいぶんと気を遣っているのが実態のようである。

6. | お国が変わると・・・ ② 独国

 独国内における「ジャガイモ加工品」の製造・販売において、期待される品質・表示内容をまとめた「指針」というものがあり、実務上、監督機関、流通段階等で「この製品が一般に通用する表示・仕様になっているか」という判断材料として用いられていると聞く。これは、LFGBの枠組みの下で整備され、法的拘束力を持つ「法令」そのものではないが、客観化された指針として実務上参照される「LFGB / Deutsches Lebensmittelbuch /Leitsätze」であり、そこでは、「ポテトチップ」と呼称できるのは、「揚げ(または焼き)加工された薄切りジャガイモのスライス」のみのようである。

 また、付加価値税の対象については、EU指令により各国に委ねられているところ、独では、ポテトチップは「加工食品」、「スナック菓子」、「味付け・調理済み」、「嗜好品」のいずれかに属することを理由に、「基礎的食品(軽減対象)」とはみなされ難いようである。

7-1. | お国が変わると・・・ ③ 米国

 米国の由緒ある辞書であるMerriam-Webster’s Dictionaryには、「薄く切った白いジャガイモをカリッと揚げて、通常は塩を振ったもの」と定義されている。

 法令上の定義を探すと、食品の品質、表示等については、Food and Drug Administration(FDA)の所管事項とされ、その法的根拠は、「Federal Food, Drug and Cosmetic Act(連邦食品医薬品化粧品法、通称FD&C Act)」等である。

 それらの法令の下で定められたコンプライアンス・ポリシー・ガイド(CPG)には、第585.710条「ポテトチップ」の項目に、「ポテトチップ」という名称の使用態様について指定があり、そこには、ジャガイモを薄くスライスして油で揚げた製品を指す場合に、特に限定なく使用することができるとされている。「ポテトチップ」という表示は、乾燥したジャガイモを加工した点のみが従来のポテトチップと異なる組成の食品については、当該食品が21 CFR 102.41に適合している場合に限り、誤解を招く表示とはみなされない。乾燥したじゃがいもを原料とし、米粉、コーンスターチ、またはじゃがいも以外の炭水化物を相当量添加した製品、もしくは従来のポテトチップに通常使用されない他の成分を含む製品については、「ポテトチップ」という表示は誤解を招くものとみなされる。

 そして、「21 CFR §102.41 ̶ Potato chips made from dried potatoes.」には、(a)ポテトチップに類似し、かつ同様の組成を有するが、脱水ポテト(芽状、フレーク状、粒状その他の形態)から構成される食品の一般的または通常の名称は、「Potato chips made from dried potatoes」としなければならないと規定されている。

7-2. | 税法上の取り扱い

 Sales and Use Tax(売上税型)については、州法の管轄であるので、例示だけしておく。

 ペンシルベニア州(PA)では、一般に、食用の飲食料品は非課税とされる一方で、一定の「調理済み・提供形態」等により課税・非課税が分かれる。例えば、61 Pa. Code §60.7では、サービスステーションが販売する小袋のポテトチップ等は非課税とされる一方、加熱サンドイッチは課税とされる。

 イリノイ州(IL)では、一般食品は軽減税率が1%であり(2025年末時点)、除外品目とされているキャンデーにはポテトチップが該当し難いので、ポテトチップは、「食品」として1%の軽減税率が適用される。成形ポテトチップであることがこの適用を左右するようには思えない。

8. | 終わりに

 以上、あちらこちらを点描的に紹介してきたが、おおよそ「ポテトチップ」とは「ジャガイモを薄くスライスして油で揚げた製品」という観念で共通している。また、成形ポテトチップの取り扱いは様々である。自然や歴史・伝統とも深く関連する「食品」という分野における知財の取り扱いの難しさとも共通しているように感じるところである。

通算40年以上の特許実務経験を有し、特許庁での機械分野の審査・審判官(長)をはじめ、首席審判長、知財高裁の首席調査官、外務省でのWIPO/UPOV担当、研究機関での知財活用責任者、特許事務所での鑑定・調査業務などを歴任。現在は、機械材料、電気情報、外内事務、業務支援、訟務の各グループを統括し、幅広い分野に対応している。
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