近時の商標権侵害訴訟における「使用料相当額」の料率について
渡部 寬樹 商標・意匠G グループリーダー 弁理士/特定侵害訴訟代理業務付記弁理士
1. | はじめに
特許法等における一部法改正により、損害賠償におけるいわゆるライセンス料相当額の認定について、侵害があったことを前提とする合意を考慮することができる旨明文化されて以降数年が経過しました。そこで、商標権侵害事件におけるこの改正の影響について概観すべく、過去3年間に商標法38条3項に基づく「使用料相当額(ロイヤルティ相当額)」が算定された裁判例をいくつか調べてみました。
件数が多いとは言えないものの、これらの裁判例から、業界の平均的な料率をベースとし、「侵害の態様」、「当事者間の競業関係」、「商標の顧客吸引力への寄与度」 等の諸事情を勘案し料率を上下させつつも、全体として高額化の傾向が見えるように思われます。
これらの判決例について、以下、料率の多寡によって分類して紹介します。
2. | 平均値より高い料率が認定された事例(4%~5%)
侵害の事実を認識しながら継続した場合や、当事者が直接的な競合関係にある場合など、統計的な平均値よりも高い料率が認められた例です。
事例 ①:衛生マスクの包装箱事件(5%)
事件番号:令和3年(ワ)第16043号
対象商標:「お年賀マスク」(登録第5322812号)
指定商品:衛生マスク(第5類)
認定された使用料率:5%
判断:第10類の商標の使用料率の平均値は売上高の3%で、その最大値は5.5%とされるが、この使用料率の平均値には、非侵害者との間の合意による使用料率も含まれており、侵害した者との間で合意をする場合、平均値より高い使用料率になり得ることを踏まえると、原告の使用機会の喪失による得べかりし利益は、対象となる商品の売上高の5%は下回らないとして、平均値(3%)を上回る 5%をロイヤルティ料率として認定しました。
事例 ②:性病専門クリニックの名称事件(4%)
事件番号:令和6年(ネ)第10051号(原審:令和5年(ワ)第70130号)
対象商標:「にじいろクリニック」(登録第6457577号)
指定役務:医業、他(第44類)
認定された使用料率: 4%
判断:原告は、性病クリニック業界の相当使用料率の相場は5.5%を下らず、原告は、その共通の経営母体による医療サービスの名称として所在地域では知名度を獲得していることや、原告と被告が厳しい競業関係にあり、被告による商標権侵害が悪質で長期間継続していることなどから、相当使用料率は10%を下らないと主張しました。しかし裁判所は、相場に関する証拠の不十分性を指摘しつつ、原告の商標の周知性や知名度の獲得を否定し、原告と被告の競業状況などを考慮しても、商標権全体の使用料率の平均値2.6%を大幅に超える料率を認めるには至らないとしました。一方被告は、相当使用料率は1%程度が相当であると主張しましたが、被告による原告商標権の侵害態様などから平均値よりも低い料率を認めることは相当とはいえないとしたうえ、本件のすべての事情を考慮し、使用料率を4%と認定しました。
3. | 平均的な料率が認定された事例(2%~3%)
特段の増額・減額事由が強調されない場合など、平均的な料率(2~3%程度)が認められています。
事例 ③:論壇誌の題号事件(3%)
事件番号:令和5年(ネ)第10091号(原審:令和4年(ワ)第19876号)
対象商標:「現代の理論」(登録第6517571号)
指定商品:印刷物(第16類)
認定された使用料率:3%
判断:商標権のロイヤルティ料率の平均値が約 2.6%とされていることを基礎に、侵害を構成する商品の性質や、被告の侵害行為の態様、その他の諸事情を総合考慮して、売上高の3と認定しました(原審の判断をそのまま採用)。
事例 ④:医薬品の名称事件(2%)
事件番号:令和4年(ワ)第16062号
対象商標:「仙脩」(登録第3297239号)
指定商品:薬剤(第5類)
認定された使用料率:2%
判断:原告は使用料率として2%を主張し、裁判所は、原告が主張する2%を下回ることはないと判断し、そのまま採用しました。
事例⑤:ロボット関連商品事件(2%)
事件番号:令和6年(ネ)第185号(原審:令和2年(ワ)第7918号)
対象商標:「Robot Shop」(登録第5776371号)
指定商品:金属加工機械器具(第7類)、電子応用機械器具及びその部品(第9類)他
認定された使用料率:2%
判断:本件は不当利得返還請求の事案で、原審において商標権のロイヤルティ料率の平均値等(第7類の平均値が1.8%、最大値が9.5%、最小値が0.5%、標準偏差が2.3%。第9類の平均値が2.7%、最大値が9.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.9%)を基礎に、原告と被告が競業関係にあること、対象となる商標がカナダ法人の商号としても使用されていること、商標の貢献の程度は限定的であること、その他の諸事情を総合的に考慮した結果認定された、2%という商標の使用に対して受けるべき料率がそのまま認定されました。
4. | 平均値を下回る料率が認定された事例(1%)
侵害商標が商品・役務の売上に寄与した割合が低いと判断された結果、平均値を下回る料率に減額されました。
事例 ⑥:ミールキットの名称事件(1%)
事件番号:令和4年(ワ)第11316号
対象商標:「パグとモグ」(登録第5135076号)
指定役務:菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
認定された使用料率:1%
判断:第35類(小売等役務)の使用料率は、平均3.9パーセント、標準偏差3.5パーセント、最大値11.5パーセント、最小値0.5パーセントとされています。
侵害と認定された片仮名の「パクモグ」は補助的に使用されているにすぎないこと、ウブサイトから侵害標章(片仮名)を削除した後もアクセス数が減少していないことから、当該標章の売上への貢献度は極めて限定的であるとしつつ、「商標権侵害をした者に対して事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になるものと解される」として、平均値(3.9%)より低い売上高の 1% と認定するに至りました。
5. | 最後に
以上の裁判例から、諸事情により上下するとしても、事例⑥のように平均値よりも低い料率が認定される場合においても、「商標権侵害をした者に対して事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になるものと解される」として、貢献度が極めて限定的な例であっても、一定の使用料率を認定しています。また平均的な使用料率を認定した事例⑤においては、「商標の貢献の程度は限定的」であるにもかかわらず、平均的な料率という結論となっています。
これらの事情に鑑みると、損害賠償額の算定における使用料率は、高額化の傾向があるように思われ、この傾向は今後も続くものと予想します。
一般に訴訟を遂行するには経費(代理人費用など)や担当者の人的な負担が発生しますが、これに高額化傾向のある損害額を加えた場合、敗訴の場合には、それなりの損失が予想されます。この損失をカバーするには、同じ金額の「売上」ではなく、「利益」が必要となります。その利益を出すための売上が必要と考えた場合、ビジネスに与えるインパクトは経済面のみからみても大きいと思われます。
このような損失を回避する方法としては、改めて指摘するほどのものではございませんが、基本に忠実に商標調査を行うことが最も有効です。そして、その基本に忠実な方法が経済合理性に最も合致するのではないかと、裁判例に接し改めて考える次第です。

