特許制度と我が国の技術開発力
- 解説
田中 信義 弁護士
世界の各地で掛け替えのない人命が無意味に失われる昨今、また、我が国の技術開発力低下が叫ばれて久しい中、我が国の技術開発力の高さを誇る大変素晴らしい報道(例えば、日経新聞令和7年4月17日朝刊)に接した。それは、京都大学iPS細胞研究所等がiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使用したパーキンソン病の臨床試験において症状改善効果を確認し、根本的治療法への実現につながる素晴らしい成果を得たとする報道である。
iPS 細胞は、2006 年にマウスのiPS 細胞、2007 年にヒトのiPS細胞の作製に成功し、その貢献により京都大学医学部の山中伸弥教授らが2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことは周知のところである。
手足の震え、筋肉のこわばり、動作遅延などの運動機能に異常が生じる病気のパーキンソン病は、高齢者に多く発症する指定難病の一つであり、我が国の総患者数は25万人、世界では何と1,000万人を上回り、更に増加傾向と推定されている。脳の中心部に近い「黒質」の神経細胞に異常が起きて発症する。この細胞で作られる体を動かすための必須物質であるドーパミンの量が減ると言われている。
iPS細胞を利用した薬剤の開発には薬効の確保と安全性確立のために更なる研究開発とこれを支える大きな資金とが必要とされるが、iPS細胞は、パーキンソン病治療と同様、不治の病とされる疾病の再生医療の発展に繋がる偉大なる出発点であろう。
更に私が注目する我が国の発明を追加すると、桐蔭横浜大学の宮坂力教授らによる太陽光発電に使用されるペロブスカイトの発明である。地球温暖化に起因する気候変動が身をもって実感される昨今、これまでの太陽光発電用パネル(シリコン型)は中国製が大半を占めるが、重い上、20~30年後の廃棄処理に重大な問題があった。ところがペロブスカイトの主原料であるヨウ素は国内産(我が国の生産量は世界2位)でまかなうことが出来る上、薄くて軽い(シリコン型の10分の1程度)ことから窓に張って発電することも可能という夢の発明である。耐用年数や発電効率などの課題を解決することが出来れば、蓄電池の高効率化と相まって、石炭、石油から脱却することも夢ではない。
ところで特許制度は、権利保護を通じて技術の公開を促す、という意味において技術開発を推進する上で極めて大きな役割を果たす制度である。もし、人類が特許制度を創出しなければ、新たな技術は公開されることなく秘匿されるため、次の技術開発は大きく遅れ、人類の生活水準の向上も遅々としたものとなったであろうことは容易に推測できよう。特許制度は、単なる技術問題ではなく、人類の生存と発展の基盤をなす制度の一つと言っても過言ではなかろう。
特許制度を上記のような視点から見たとき、特許出願件数は、技術開発力を図る有力な指標の一つである。そこで、特許統計に示された我が国及び世界主要国の特許出願件数を見てみると、以下の図のようになる。

これを見ると、中国が140万件台から161万件台と第2位米国の59万件台から60万件台の3倍近い出願件数で断トツである。我が国は、29万件台から31万件台とこれに続いている。そして、我が国の特許査定率は、2015年代以降70%超える状態が続いている。
中国の技術開発力が世界を圧倒する一方で、我が国の技術開発力の低下が叫ばれて久しいが、前述したように人類の生存に大きく貢献する可能性を秘めた発明が我が国から生まれている事実に日本国民の一人として、また、特許問題に係わる者として、胸に誇りを秘めている。

